味噌醤油屋ならではの発酵パワーで、
地元食材を生かした豊かな食の時間を提供
〈発酵食堂 やぎさわ〉@岩手・陸前高田

posted:2024.3.8

〈発酵食堂 やぎさわ〉ってどんなお店?

岩手県陸前高田市に2020年冬オープンした〈発酵食堂 やぎさわ〉は、発酵のテーマパーク〈CAMOCY(カモシー)〉内にあります。〈CAMOCY〉は、パン、クラフトビール、味噌や醤油、チョコレートなど、発酵をキーワードにした食を楽しめる場所。

その一つである同店は、地元の老舗醤油店〈八木澤商店〉が営み、味噌や醤油の発酵パワーを生かしたメニューや自家製甘味が人気です。県産木材を使った明るい建物では、観光や仕事で訪れる人や地元住民が思い思いに時間を過ごしています。

こだわりのイッピン

食事メニューにはすべて〈八木澤商店〉の発酵食品を使用。味噌や醤油、もろみなどを料理に合わせて取り入れています。食事のお米は今泉産「ひとめぼれ多賀多」など、地元陸前高田のおいしいお米を炊きたてでおひつに入れて提供しています。

おすすめメニューの一つが「塩麹シャケのはらこ飯」。塩麹に漬けて焼いたシャケと〈八木澤商店〉の「奇跡の醤」に漬けたイクラを一緒に味わうぜいたくな一品です。

「塩麹シャケのはらこ飯」。ふっくら柔らかいシャケと旨みあふれるイクラをいっぺんに味わえる。

また、陸前高田市に隣接する住田町の〈ありすポーク〉を使用した「豚ロースのもろみ焼き定食」も人気。〈八木澤商店〉の醤油かすを食べて育った肉を、もろみでつくった秘伝ダレに漬け込んで焼きあげたもの。そして、4月から登場した「岩手鴨の治部煮御膳」は、自家製かえしダレを使用した優しい味の炊き物。こちらもぜひ味わってもらいたいメニューです。

「豚ロースのもろみ焼き御膳」。週替わりの汁物は豚汁やけんちん汁、ひっつみ汁など、味噌醤油屋ならではの味を楽しめる。

ほかにも、「まぐろ漬けご飯」や自家製返しダレを使った「鰻のひつまぶし」など、味噌醤油屋だからこそできる味わいの料理ばかり。〈八木澤商店〉の発酵食品によって引き出された食材本来のおいしさを楽しめるのが〈発酵食堂やぎさわ〉の特徴です。

さらに、全メニューに共通するのが「お出汁」。食事の最後に、八木澤商店自慢の白だしを昆布だしで割った温かいお出汁をご飯にかけて食べると、ほっとした気分に。食事を締めくくるのにぴったりです。

午後2時から5時までは甘味も食べられます。あんみつや本わらびもち、夏には特製のふわふわかき氷などを味わうことができます。寒天や白玉、小豆、黒蜜、練乳まで全て店内スタッフによるお手製です。

どんな発酵?

調理に使う発酵食品の選び方は、素材となる食材をどう生かすか。例えば、イクラ漬けに使われる「奇跡の醤」の原料は大豆、小麦、食塩のみ。自然の気温によって発酵を促す昔ながらの醸造方法は時間がかかりますが、長い熟成期間によって「塩かど」がとれたまろやかな口当たりの濃口醤油になり、イクラの醤油づけにも奥深い旨みを醸し出しています。

マグロ漬け用には、地元産大豆と小麦でつくった濃口丸大豆醤油「いわて丸むらさき」を、サバの味噌煮には専用のオリジナル味噌を使用するなど、食材の特徴や味のバランスを考え、発酵パワーをふんだんに生かしたメニューを生み出しています。

なかでもイクラ漬けに使用される「奇跡の醤」は、東日本大震災によって本社・工場・店舗の全てを失った同社における希望のひとしずくでした。釜石市の研究施設に保管していたため、被災を免れた「もろみ」を培養し、暑く厳しい夏を2年越しで熟成させた醤油。そんな思いのこもった発酵食品も使われています。

再建への希望となった「奇跡の醤」(中央白い瓶)。

醸す人

〈発酵食堂 やぎさわ〉を運営する〈八木澤商店〉は、1807(文化4)年創業の老舗。もともと酒蔵として始まり、戦後から味噌や醤油の製造を行うようになりました。かつて八木澤商店が仕込み蔵を構えており、今はCAMOCYのある陸前高田市今泉地域は昔からきれいな水が湧き、醸造に適した地域。同社は住民の台所を支えるべく、安全安心材料を使った丁寧な仕事を続けてきました。

2011年の東日本大震災後、9代目社長となった河野通洋(みちひろ)さんは、社屋や工場の施設すべてを流され醸造蔵の生命線を失いかけるも諦めず、今泉を再び「発酵のまち」にすべく動いてきました。

震災直後の5月には一関に営業事務所をオープンし、同業者にOEM生産を委託する形で醤油醸造を開始。これは業界の常識を覆すやり方でしたが、常日頃から交流を重ねてきた信頼関係あってこそ。震災1年後には製造工場を設立、さらに本社を陸前高田に戻し、2021年5月に本社新社屋が完成。〈発酵食堂 やぎさわ〉、そして店を構える〈CAMOCY〉は河野さん自身の願いが形になったものなのです。

発酵の話をしだすと止まらない河野通洋さん。

「もともと私たちの工場があった今泉地区には、当社の醤油かすを肥料にした米づくりをやっている先輩がいて、そのお米を使った料理を提供できたらという思いがありました。できるだけ農薬や化学肥料を抑えながら無駄なくモノを循環させて、地域で食材、モノ、人も生かしていくサイクルをつくりたい、と」

そう話す河野さん。いつか、発酵を通じて土地の食材を楽しんでもらえる場所ができたら、というのは震災の前からずっと考えていたことでした。〈CAMOCY〉には〈発酵食堂 やぎさわ〉を含む7事業者が店を並べていますが、より地域のひとに楽しんでもらえるよう事業者みんなで定期的に勉強会を実施。スタッフからあふれるアイデアに「人が場を醸していく」手応えを感じているといいます。

隣接する「発酵マーケット」では、自社商品だけでなく全国やヨーロッパを中心にした海外の発酵食品を販売。

発酵のテーマパークをコンセプトにした〈CAMOCY〉で、地域の人に豊かな食の時間を提供する〈発酵食堂 やぎさわ〉。ふらりと訪ねる旅行者も地元の人も、気軽に休める心地良さがあります。皆さんもぜひ、足を運んでみてください。

information

〈発酵食堂 やぎさわ〉

address:岩手県陸前高田市気仙町字町15
営業時間:11:00〜19:00 ※ラストオーダー18:30
定休日:火曜日
https://camocy.jp/shop/335/

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