発酵のぎもん

食品以外にも活用される発酵とは?

食品以外にも活用される発酵の力

発酵とは、微生物が有機物を分解する過程で、人間にとって有益な別の物質を生み出すこと。私たちにとって身近なのが発酵食品ですが、実は社会のさまざまな分野で発酵の力が利用されています。

医薬品分野

市場規模で一番大きいのが医薬品です。発酵技術を応用してつくられる医薬品の代表格が、細菌性感染症の治療に用いられる「抗生物質」。微生物からつくられ、ほかの微生物の生育を抑制する働きがあります。例えば〈ペニシリン〉は、青カビの一種からつくられており、抗菌作用があるため悪い菌が増殖することを防ぐ効果があります。

近年では、世界で流通しているコレステロール合成阻害剤(コレステロール抑制剤)も、発酵の力によって生み出されるようになりました。ほかにも抗がん剤、胃腸薬や整腸剤などの消化剤、各種ビタミンやホルモンなどの生産にも、発酵技術が用いられています。

化学製品分野

続いて市場規模が大きいのが化学製品です。食品にもつながりますが、さまざまな食品の添加物に用いられる「乳酸」や「クエン酸」、「リンゴ酸」などの有機酸は発酵の力を用いて生産され、発酵産業の中でも大きな割合を占めています。また、旨み成分として知られる「グルタミン酸」「イノシン酸」「グアニル酸」はいずれも発酵技術によって生産できるようになり、旨み調味料の分野では日本が世界をリードしています。

生活用品分野

生活に身近なところでは日用品でも活用されています。その代表格の洗剤には、微生物がつくり出すさまざまな分解酵素が含まれています。例えば、でんぷんを分解する「アミラーゼ」は食器用洗剤に、たんぱく質を分解する「プロテアーゼ」と脂肪を分解する「リパーゼ」は衣服用洗剤に利用されています。さらに「リパーゼ」は脂肪がつきにくいサラダ油などの機能性食品にも使われています。

また、日本の伝統的な染物の「藍染」にも発酵の力が用いられています。タデアイという植物を発酵により堆肥状にした「すくも」を原料に、ふすま(小麦の皮)や植物の灰汁などを加えてさらに発酵させることで、藍の色を液の中に溶け出させます。発酵の力のみで藍の成分を生地の表面に吸着させるこの製法は「灰汁発酵建て(あくはっこうだて)」と呼ばれ、世界の染物のなかでも非常に特殊で貴重な染色技術です。

環境分野

発酵技術の活用に今後さらなる期待が寄せられているのが環境分野です。特に廃棄物をはじめとしたバイオマスの活用には、発酵の力が欠かせません。バイオマスとは植物、動物、微生物のような自然界を構成する生物資源(bio)の集合体(mass)のこと。「動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源」を指します。

例えば、食品廃棄物や家畜のふん尿などは、微生物の力で水素発酵やメタン発酵させることで、水素やメタンガスは発電やガスとして利用し、残渣は肥沃な堆肥として農地に還元することが可能です。また、下水道の汚水処理でも発酵の力が欠かせません。廃水中の有機物を微生物の力によって分解しろ過することで、きれいになった水を河川や海に放流しています。また、汚泥は肥料や埋め立て用の資源として利用されています。石油などの化石資源はいずれ枯渇しますが、バイオマスであれば地産地消で再生可能なエネルギーとして、これからの持続可能な社会の実現のために注目されています。

監修:小泉武夫(こいずみたけお)
1943年福島県の酒造家に生まれる。農学博士。東京農業大学名誉教授のほか、全国の大学で客員教授を務める。専攻は醸造学・発酵学・食文化論。食にまつわる著書は140冊以上。国や各地の自治体など、行政機関での食に関するアドバイザーを多数兼任。発酵文化の推進ならびにその技術の普及を通じてさまざまな発展に寄与することを目的とした「発酵文化推進機構」の理事長も務める。 発酵文化推進機構公式サイト