日本各地にある“レアな”発酵調味料。
「一度は味わってみたい!」
こだわりの逸品をご紹介。
パンづくりに欠かせない「酵母(イースト)」。発酵する際に生成される炭酸ガスが、パン生地を膨らませます。さらに発酵過程で香り成分を生み出すのも「酵母」の働きによるもの。そんな「酵母」には、強い発酵力を持つ単一の菌を工場で培養した「イースト」と、果実や小麦粉、麹など自然の力で育つ「天然酵母」があります。今回は、天然酵母のなかでも、自然な香りやしっとりとした食感を楽しめることで注目を集めている〈あこ天然培養酵母〉についてご紹介します。
「酵母」とは、糖をアルコールと炭酸ガスに分解する微生物のこと。〈あこ天然培養酵母〉は米と小麦粉を培地に、酵母菌と麹菌を培養してつくられた「天然培養酵母」です。酵母と麹の働きが同時になされる日本古来の醸造技術である「並行複発酵」により、菌が培養されています。
そのため、〈あこ天然培養酵母〉でつくられるパンの発酵過程においても、麹菌の働きによって旨み成分と、酵母の働きによって香り成分が豊富に生まれるのです。
また、〈あこ天然培養酵母〉自体にクセがないため、主原料である小麦の素材そのものの風味を生かしたパンに仕上げることができます。一般的に持たれやすい「固い」「すっぱい」「クセがある」といった天然酵母のイメージを覆す、毎日食べても飽きない味を〈あこ天然培養酵母〉は実現しています。
〈あこ天然培養酵母〉を使ってパンづくりをする場合、最初に「生種起こし」を行う必要があります。これは、乾燥して眠った状態にある粉末状の酵母たちに水を与え、温めて目を覚まさせるための工程です。
まず、35℃の水を一定方向でかき混ぜながら、酵母の粉末を入れます。だまがなくなるまでかき混ぜたら、フタをして27〜32℃の場所に置いて発酵を促します。「ストロングタイプ」は24時間程度、「ライトタイプ」は30時間程度、じっくり発酵させます。おから状の酵母が、甘酒のようにもったりとした液状になり、なめると酒のような味になっていれば完成です。
フランスパンなどの外皮をパリっと香ばしく仕上げるハード系のパンに向いている「ライトタイプ」と、食パン、菓子パンなどに向いている「ストロングタイプ」
また、これまで24時間以上かかっていた予備発酵(生種起こし)が、わずか40〜60分でできる「即日活性種」も開発されました。効率が向上する一方で、味わいや扱いやすさはそのままという画期的な商品。おうちで時間をかけずにパンづくりをしたい方におすすめです。
生種起こしをしたあとは、通常のパンづくりと同じように、材料をこねて、一次発酵をさせたあと、ベンチタイム、二次発酵を経て焼成します。もちろんホームベーカリーの使用も可能です。
〈あこ天然培養酵母〉を使ってつくられたパンの食べ頃は2日目から。ひと晩寝かせたカレーのように、焼きたてよりも味わいがぐっと深まる
ちなみに完成した生種は、冷蔵庫で1週間〜10日程度保存が可能です。多めに仕込んでおけば、その都度生種起こしをしなくても、好きなときにパンを焼けるので便利です。さらに〈あこ天然培養酵母〉は、家庭料理の隠し味としても活躍。「旨み調味料」としてみりんや酒の代わりに、生種を加えてみましょう。いつもの料理に奥行きを与えてくれます。
〈あこ天然培養酵母〉を開発したのは、酵母職人で〈有限会社あこ天然酵母〉代表の近藤泰弘さん。天然酵母のパイオニアである〈ホシノ天然酵母〉を開発した星野昌さんに25年間師事し、天然酵母づくりの技を継承しました。
「就職先を決めかねて迷っていたとき、近所でアルバイトを募集していると聞き、工房を訪ねてみたのが星野さんとの出会いでした。パンをつくるのかと思って行ってみたら、酵母だったんです。最初は、何もわからないまま粉を混ぜたり、できた酵母を顧客のところへ配達したりするのが仕事でした」と近藤さん。
左、星野昌さん。右、近藤泰弘さん
師匠と共に、日本古来の味噌や醤油の醸造技術を学び、天然酵母づくりを続けました。そんな近藤さんが独立し、2002年に立ち上げた会社が〈有限会社あこ天然酵母〉です。
「水だけで炊くごはんのように、クセがなく飽きのこないパンがつくれる酵母を目指しました。師匠の酵母を唯一受け継ぎ守っている〈あこ天然酵母〉を、次の世代につなぐのが使命です」と近藤さん。〈あこ天然酵母〉の「あ」は星野昌さんの「あ」、「こ」は近藤さんの「こ」。酵母のネーミングにも、師匠への思いが込められています。
東京都八王子市にある〈有限会社あこ天然酵母〉の社内パン工房では、テストベイキングやベーカリー開業予定者への研修、さらに〈あこ庵〉という屋号のもとパンの製造販売も行っています。JR八王子駅の改札前コンコースに開設されている「やまたまや 八王子」と、立川高島屋店、新宿タカシマヤタイムズスクエア店にて、曜日限定販売しています。〈あこ庵〉で購入したお客さんの声をもとに、天然酵母のさらなる改良や新しいレシピを開発しているそうです。
自社のパンだけでなく、全国各地のベーカリーでも使用されている、自然な旨みの〈あこ天然培養酵母〉。〈あこ天然培養酵母〉で毎日食べても飽きのこないパンを、おうちでつくってみてはいかがでしょうか。