発酵レア調味料

日本各地にある“レアな”発酵調味料。
「一度は味わってみたい!」
こだわりの逸品をご紹介。

雪国が生んだ唐辛子の発酵調味料。
コクと旨み、香りが凝縮された〈かんずり〉

posted:2021.2.19

世界でも有数の豪雪地帯である、新潟県妙高市。この雪国に古くから伝わる発酵調味料があります。3年の月日をかけて唐辛子を発酵させてつくる〈かんずり〉です。最近では都内のスーパーなどで見かけることもあり、グルメ通のなかでは「東の〈かんずり〉、西のゆず胡椒」といわれることも。実はこの〈かんずり〉を製造するのは1社のみ。和洋中どんな料理ともマッチする名脇役の発酵辛味調味料、〈かんずり〉をご紹介します。

【〈かんずり〉とは?】

〈かんずり〉とは、唐辛子を発酵させてつくる、赤褐色をしたペースト状の辛味調味料。唐辛子と聞くと、激辛を想像するかもしれませんが、〈かんずり〉は辛味と塩味のバランスが良く、コクと旨みのあるまろやかな辛さが特徴です。また、ゆずの爽やかな香りもたまりません。

〈かんずり〉の名前は漢字で「寒造里」と書き、雑菌の少ない冬に仕込む「寒づくり」が由来です。そんな〈かんずり〉づくりの要となるのが、「雪さらし」と呼ばれる独特の作業。塩漬けにした唐辛子を仕込む前に三日三晩、雪の上にさらすのです。そうすることでアクの強い唐辛子のえぐみや渋みが抜けて、ちょうど良い辛さになります。

そして、雪さらしを終えた唐辛子に、塩、ゆず、米麹を加えて樽に仕込み、3年間じっくり発酵熟成させます。生産者曰く、3年寝かせることで塩の角が取れ、丸みのある塩味になるといいます。

なお、3年間そのまま置いておく訳ではありません。年に1回樽をかき混ぜ空気を入れる「手返し」を2年くり返し、発酵を促します。

ちなみに通常の〈かんずり〉は瓶詰め後に加熱していますが、加熱をせずに仕上げる〈生かんずり〉もあります。通常のものと比べて、なめらかな質感とゆずの香りをより強く感じることができます。

【〈かんずり〉の使い方】

〈かんずり〉の使い方は、「つける・加える・混ぜる」の主に3パターンがあります。まずはそのまま焼き鳥やステーキ、餃子、揚げ物などにつけて食べてみましょう。〈かんずり〉の爽やかな風味が脂っぽさを中和してくれます。次にラーメン、鍋料理、そばやうどん、天ぷら、豚汁、おでんなどに加えて。スープに驚くほどコクがでます。

それから醤油などの調味料と混ぜてみましょう。こんがり焼いた魚やいか、油揚げと「かんずり醤油」の相性は抜群。また、なすやきゅうりを漬ければ「かんずり醤油の一夜漬け」が完成します。

「〈かんずり〉は他の食材と合わせると、少しの辛みとコク、風味を出してくれるんです。〈かんずり〉を初めて食べる方やお子さまなど辛いものが苦手な方におすすめなのが、マヨネーズと混ぜる使い方。社内では昔からの定番で『かんマヨ』と呼んでいます。唐揚げ、ポテト、あたりめ、野菜スティックなど、ぜひ試してみてください」と広報担当の清水真由美さん。

また、地元のスキー場でも採用されていて、生産者イチオシなのが「かんずりカルボナーラ」。

「〈かんずり〉はチーズなどの乳製品との相性が良いので、カルボナーラの隠し味にもピッタリなんです。市販のパスタソースに加えるだけでもグンとおいしくなりますよ」(清水さん)

【〈かんずり〉のつくり手】

雪国ならではの極寒環境によってつくられている〈かんずり〉。そもそもの歴史を遡ると、約400年前の戦国時代には、唐辛子をすりつぶしたものが食べられていて、上杉謙信の軍が出兵する際にも携行されていたとか。

これが〈かんずり〉の原型で、妙高市のある新潟県上越地方では、味噌づくりと同じように各家庭で唐辛子を漬け、それを温かい鍋や汁物に入れたりして、寒い冬を乗り切ってきたそうです。しかし、時代とともに家庭でつくる人は減っていきました。

「このままでは地元の食文化がなくなってしまう…」そう危惧したのが〈有限会社かんずり〉の創業者である、東條邦次(くにじ)さん、邦昭(くにあき)さん親子。およそ20年かけて研究し、現在のレシピを確立させたといいます。

毎年1月20日前後の大寒の日を「雪さらしはじめ」とし、2月いっぱいまでに10回ほど「雪さらし」を行う

「家庭で唐辛子を漬けていた頃、軒先に吊るして干しておいた唐辛子がたまたま雪の上に落ちていて、2〜3日後に気づいて食べてみたら、雑味が抜けて辛味がマイルドになっていたことが『雪さらし』のはじまりだと聞いています」(清水さん)

なお、使用している唐辛子はすべて地元産。契約農家にお願いしているものと、一部は自社栽培しているというから驚きです。長い年月の間、自然交配した「かんずり用唐辛子」は、今では通常の唐辛子の約3倍の大きさに。実が厚く、辛さにも深みと旨みがあるオリジナルの唐辛子を栽培しています。

唐辛子の栽培から数えると実に4年の歳月を経て完成する〈かんずり〉。

「毎年原料の分量や製法は変えずに仕込んでも、熟成・発酵の段階で置く場所やその年の気候によって、樽一つひとつ微妙に味が違ってくるんです。そこが発酵のおもしろいところでもありますよね。〈かんずり〉はそれ自体が主役ではありませんが、和洋中どんな料理とも合わせられ、さりげなく味を引き立ててくれる名脇役。今後も地元の宝を大切に受け継いでいきたいと思っています」(清水さん)

唯一無二の発酵辛味調味料の〈かんずり〉を、調理のお供にしてみてはいかがでしょうか。

information

〈かんずり〉

価格: 650円/かんずり大70g、500円/かんずり小47g(税抜)
かんずりオンラインショップ:
http://kanzuri.shop-pro.jp/