ザワークラウト編

わたしたちの身近にある発酵食材。
常備している人が多いものの、
その食べ方のレパートリーは意外と少ないかもしれない。

そこで世界の料理に精通する森枝幹シェフが、
アレンジレシピを考案。

自宅の台所から、世界の食卓へ出かけてみよう。

今回のお題は「ザワークラウト」。

世界中の人に愛されている「肉×発酵野菜」の
ベストコンビメニューって?

濃厚な肉の旨みを爽やかにいただく
「ドイツ料理 ザワークラウトとソーセージ」

posted:2021.11.12

ドイツ料理に欠かせないキャベツの酸っぱい漬物「ザワークラウト」。とってもシンプルな発酵料理で、刻んだキャベツに塩をもみ込んでビンに詰めて置いておくと、キャベツの葉についた微生物たちがせっせと働き、ビンの中でシュワシュワと乳酸発酵が始まる。キャベツの栄養と食物繊維に加え、発酵パワーで腸活にもぴったりだ。さあ、ビールを用意して、おいしい一皿で自然豊かなドイツの旅を始めよう。

栄養満点! 大航海時代にも
重宝されたキャベツの漬物

ドイツの食事といえば、じゃがいも、ビール、ソーセージ……。ツウな人なら、ザワークラウトもきっとご存じのはずだ。これはキャベツを乳酸発酵させてつくる漬物で、キャベツに塩をふるだけでできるという手軽さから、なんと古代ローマ時代から食べられていたのだそう。フランスでは「シュークルート」とも呼ばれており、そのキャベツの漬物を使った煮込み料理は、ヨーロッパ諸国で広く食べられている。

乳酸発酵させたこの料理は、実は船乗りとの関わりも深い。大航海時代、ビタミンCの不足による壊血病で命を落とした船乗りは200万人以上ともいわれる。イギリス海軍の航海長として知られるジェームズ・クック船長は、この壊血病の予防のために大量のザワークラウトを船に積み込み、船員たちの命を守ったという。

キャベツには、ビタミンCやビタミンU(キャベジン)やミネラルが多く含まれる。ザワークラウトは食べる際に加熱する必要がないため、ビタミンCを壊さずに摂取できるのが魅力。乳酸菌をたっぷりととれるので腸内環境を整える腸活にもぴったりだ。脂肪分を含まないからヘルシーで、栄養も豊富とまさにいいことずくめ。船上だけでなく、陸地でも各地の冬季の重要な保存食とされてきた。

ドイツ家庭で出合った
“肉×発酵野菜”メニュー

「ヨーロッパを歩くといろんなところでザワークラウトを目にしました。もちろんドイツを旅したときも、食事のたびに遭遇しましたね」と森枝さん。

以前、ドイツ出身の友人の里帰りについていき、北部の町・ハノーファーにある実家にお邪魔したことがあるのだとか。滞在中は、友人のおばあちゃんのつくる家庭料理をたくさんいただいたという。

「ドイツはごはんがおいしくないと聞くこともありますが、とんでもない! チーズやパン、ソーセージはもちろん、とれたてのホワイトアスパラもちょっと茹でただけで絶品でした」(森枝さん)

友人宅で食べたドイツの家庭料理(画像提供:森枝幹)

「ちょっとした素材がここまで美味なら、もう何もいらないくらい。現地で出合ったザワークラウトもおいしかったですよ。肉料理の付け合わせになっていたり、白身魚に添えられていたり、煮込みになっていたり。いろんなメニューで使われていましたね」(森枝さん)

面白いことに、コッテリした肉類を乳酸発酵した野菜で爽やかに食べるというスタイルは世界中にある、と森枝さんは言う。

「例えば、以前つくった『台湾風 白菜発酵鍋』は豚肉と乳酸発酵させた酸っぱい白菜でいただくものでした。タイにも、酸味のある高菜と肉を組み合わせるメニューがあります。バランスがよくて、永遠に食べていられそうな黄金の組み合わせです。これって、一体いつ、誰が、どこで始めた食べ方なんでしょうね。世界同時多発だったら、それはそれで面白いしロマンがありますよね!」

世界中の人に愛されている「肉×発酵野菜」のベストコンビ。今回は、ソーセージとザワークラウトを組み合わせた一皿を森枝さんが教えてくれた。早速つくってみよう。

「ドイツ料理 ザワークラウトと
ソーセージ」のつくり方

まずは、玉ねぎ、にんじん、じゃがいもの皮をむき、食べやすいサイズに切ろう。

「切り方はだいたいのお好みでどうぞ。サイズ感をそろえるのがコツです」(森枝さん)

今回は、玉ねぎはくし切り、にんじんは輪切り、じゃがいもは乱切りにする。

「今回は食べ応えを重視して、全体的に大きめに切っています。これでだいたい1時間くらい煮込むサイズ。もっと早く仕上げたい時は、具材を小さめに切るといいですよ」(森枝さん)

鍋にサラダ油をひき、玉ねぎを炒める。

「玉ねぎは、キツネ色まで炒める必要はなく、ちょっとしなっとさせるくらいで大丈夫です」(森枝さん)

続いて、にんじん、じゃがいも、ソーセージ、ザワークラウトを投入。さらに、ローレルやクローブを入れる。

「ソーセージを並べて、ザワークラウトをどっさり入れて、と。映えますね」

水1/2カップに規定量の固形ブイヨンを溶かして鍋に加え、弱火で1時間ほど煮込もう。

「焦げ付かないように、火加減だけご注意を。ドイツでは、ストーブの上に置いたり、オーブンに入れて加熱したりすることも。忘れているうちにいい感じに仕上がりますよ」(森枝さん)

弱火で1時間ほど煮込む。野菜がやわらかくなればOK。器に盛り付けて、マスタードを添えたら……

「お待ちどうさま。あっという間に完成です!」

「ドイツ料理 ザワークラウトと
ソーセージ」をいざ実食!

熱々の鍋からトロトロになって登場したザワークラウトと、湯気の立つソーセージをお皿にたっぷりとよそう。ソーセージにナイフを入れて、ザワークラウトと一緒に一気に口に運んだ森枝さん、皮が破けるジューシーな音を楽しみながら、「うん、やっぱりいい組み合わせですね!」と満面の笑み。

「乳酸発酵の野菜って、油っぽいものを永遠に食べさせてくれる名脇役ですよね。ポトフの感覚で、ベーコンや牛肉と一緒に煮込んでもおいしいと思いますよ。スープにも乳酸菌がたっぷり。カレーに入れて隠し味にしてもいいですね」

と言いながら森枝さん、「は〜!うまい!」と魂の声。

「やっぱりドイツ料理はビールに合いますよね。料理にまろやかな酸味と塩気があるので、同じく乳酸発酵仲間のカルピスも相性がいいですよ。今回は市販のザワークラウトを使いましたが、我が家でもたまにつくります。普通のキャベツでもいいし、赤キャベツでつくってもかわいいんです」

もうおかわりが止まらない森枝さん。これからますます寒くなる時期、お好みの肉とザワークラウト、それから体を温める根菜もいっぱい入れて、ほっこりと幸せなドイツの家庭料理を楽しんでみては。

Recipe

〈材料〉4人分
ザワークラウト・・・300g(1瓶)
ソーセージ(小)2種・・・各8本
玉ねぎ(中玉)・・・1個
にんじん・・・1本
じゃがいも・・・3個
サラダ油・・・適量
【A】ローレル・・・1枚
【A】クローブ・・・3粒
【B】水・・・1/2カップ
【B】ブイヨン・・・適量
マスタード・・・適量
〈つくり方〉
1.玉ねぎ、にんじん、じゃがいもを切る。
2.鍋にサラダ油をひき、玉ねぎを炒める。
3.2ににんじん、じゃがいも、ソーセージ、ザワークラウト、【A】、【B】を入れる。
4.弱火で1時間ほど煮込み、野菜がやわらかくなれば完成。マスタードを添えてお召し上がりください。
森枝幹(もりえだ・かん)
1986年生まれ。調理師専門学校を卒業後、オーストラリアへ留学。世界のベストレストランの常連「Tetsuya’s」で料理の基礎を学び、帰国後は京料理の「湖月」、分子ガストロノミーで有名なマンダリンオリエンタルホテル内「タパス モラキュラーバー」で料理人としての修行を積み、2011年に独立。下北沢の「Salmon&Trout(サーモン・アンド・トラウト)」のシェフを務めた後、2019年11月、渋谷パルコにタイ料理店「CHOMPOO(チョンプー)」をオープン。ほかにフードマガジンの発行や、レモンサワー専門店のプロデュースなど、従来の料理人に枠にとらわれず活動を続ける。父は写真家・食文化研究家として知られる森枝卓士氏。