納豆編

わたしたちの身近にある発酵食材。
常備している人が多いものの、
その食べ方のレパートリーは意外と少ないかもしれない。

そこで世界の料理に精通する森枝幹シェフが、
アレンジレシピを考案。

自宅の台所から、世界の食卓へ出かけてみよう。

今回のお題は「納豆」。

混ぜてごはんにかけるのが王道だが、
一体どんな風に姿を変えるのだろうか?

辛さとコクがたまらない !
「ミャンマー風 納豆炒めのせごはん」

posted:2020.6.19

遥か昔から日本人とともにあり、今ではどこの家の冷蔵庫にもポンと気軽に常備されている「納豆」。茹でた大豆と納豆菌の出合いから生まれたこのソウルフードは、栄養価といい、手頃さといい、まさに発酵食品の王さまだ。とはいえ、その味、香り、食感は独特。アレンジの限られそうな食材だが、世界を旅する森枝シェフの腕にかかれば、みちがえるような一皿に。おいしくて奥深い納豆ワールド、そのめくるめく冒険へ、いざ。

発酵界のキング「納豆」の
おいしい話

古来から菌とともに生き、発酵食品を上手に暮らしの中へとりいれてきた日本人。その代表たる「納豆」は、稲ワラに住む納豆菌が、茹でた大豆のたんぱく質を分解し、ネバネバの食材につくり変えたものだ。

たんぱく質や脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、食物繊維といった健康に欠かせない栄養素がぎゅっと詰まっているほか、骨粗しょう症の予防やエイジングケアにも効果的とされるイソフラボン、血栓を溶かすとされるナットウキナーゼも含まれるなど魅力も多い。

「梅干しと一緒にごはんにのせたり、お味噌汁に入れて納豆汁にしたり、ぼくも普段からよく食べます。とくに好きなのは、川崎市にある〈岡田発酵工房〉の納豆 ! 効率的な急速発酵ではなく、ゆっくりと丁寧に発酵させているのが特徴で、一粒一粒の味は驚くほど濃厚。納豆独特の匂いもほとんどしないんですよ」と森枝さん。

週末に青山で開催される定期市〈ファーマーズマーケット〉で見かけたときは必ず買い、最近は取り寄せることもあるほどハマっているんだとか。そんな森枝さんは、アジアを旅する最中にも納豆をたくさん目撃したそうだ。

アジアの街角で
“ローカル納豆”に出合う

タイのクロントイマーケットにて。海外へ行くと必ず食材を見つけに市場を訪れるという(写真提供:森枝幹)

「アジアの納豆は調味料や保存食になっていることがほとんどで、タイやラオスの市場でいろんなタイプを見かけました。日本で一般的に食べられているような“生”のネバネバしたものではなく、香辛料と混ぜてペースト状にしたもの、乾燥させて粉にしたもの、平たく伸ばしてパリパリのシート状にしたものなどが多かったですね」

シート状の乾燥納豆(写真提供:森枝卓士)

ミャンマーの市場で売られていた納豆(写真提供:森枝卓士)

えっ。世界にも納豆が!? と意外に思うが、一説によれば、奈良時代に、唐(中国)に渡った日本人僧が、大陸の納豆文化を持ち帰ったとされている。加熱した大豆を、納豆菌ではなく麹菌と塩水で発酵・乾燥させた、糸を引かない納豆「塩辛納豆」だ。これは現在も各地の寺の名物として残っている。

このように、日本人を含めたアジア人はみんな、古代から脈々と納豆カルチャーをはぐくんできた“納豆大好き民族”なのだ。

「ローカル納豆は見た目こそ違いますが、食べてみるとおなじみの味です。実は、ぼくの父もアジアの納豆にゆかりがあって、仕事で訪れていたミャンマーから我が家に持ち帰ったお土産が現地の納豆でした。かの地で習得したという“納豆炒め”もよくつくってくれたんです」

写真家かつ食文化研究家としても活躍されている森枝シェフの父・卓士さんによれば、ミャンマーの納豆は、薬味や香味野菜と合わせて炒め、ライスにのせて食べる。いわばドライカレーのようなスタイルで愛されているんだとか。

今回は、エキゾチックな風がふきわたるミャンマーの街角のローカルごはんを再現。和食としておなじみだった納豆が「はじめまして」と新たな表情を見せてくれる、「ミャンマー風 納豆炒めのせごはん」をつくってみよう。

「ミャンマー風 納豆炒めのせごはん」のつくり方

レシピは簡単。白ネギと生姜、ニンニクをみじん切りにし、サラダ油とともにフライパンの中へ。さらに柚子胡椒を足して熱する。

「柚子の皮と青唐辛子で仕込む『柚子胡椒』も、乳酸菌が生み出す発酵食品の一つ。辛い料理をつくりたいとき、わざわざ唐辛子を買いに行くのは面倒ですが、柚子胡椒があれば、さっと辛味と塩気を足すことができる。冷蔵庫に一つあると重宝する調味料ですよ」

熱されたオイルの中に、ミニトマトと納豆を入れるとジュワッと香ばしい湯気。途端に広がる、食欲をそそる納豆のいい香り。

「つまみぐいしたいのをぐっと我慢して」と笑う森枝さんが、納豆の粒を軽くつぶしながら強火で炒めること5分。フライパンの中では納豆の糸がへり、全体的にまったりとしはじめた。これを、あらかじめ炊いておいた熱々のライスにのせれば……。

「お待ちどうさま。『ミャンマー風 納豆炒めのせごはん』、完成です !」

元気になれる
ウマ辛料理をいざ実食

湯気とともにお皿から漂いだす香りに、おなかがぐうぐう。「いただきます !」と口に運んだ森枝さん、お味のほどは?

「うーん、辛いっ ! うまい ! 納豆ならではのコクと塩気、柚子胡椒の辛味がいい塩梅。噛めば噛むほど旨みが口いっぱいに広がって、やみつきになりますよ」

まずは柚子胡椒のパンチにカーッと舌が燃えあがり、うっとりするような濃厚な納豆の旨み、トマトの爽やかな酸味が続いて、あれよあれよと減っていくお皿の中身。冷たいビールにも合いそうな、まさに夏の味。納豆独自のネバネバ食感や香りがなくなっているので、納豆が苦手な人にもぜひ試してもらいたい一品だ。

アレンジするなら
「納豆チャーハン」

さて、この「納豆炒め」は、単体でチミチミと口に運んでお酒のあてにするもよし、好相性の炭水化物と組み合わせてパスタなどの麺類とあえてもよし。なかでも、アレンジするならイチオシだと森枝さんが素早くつくってくれたのは、納豆炒めに卵2個とごはんを加えた「納豆チャーハン」だ。

「チャーハンにすると、とがっていた辛みがよりまろやかになって食べやすくなります。夏バテも吹き飛ばす一品ですよ」

熱い湯気のたつこのチャーハンをハフハフとかきこみ始めたら、もうスプーンがとまらない。燃えるような味わいに、たらりと汗がひとしずく。自宅にいながらにしてミャンマーの空の下をゆくような食の旅、ぜひ皆さんもお試しを。

Recipe

〈材料〉2人分
ご飯・・・1合
納豆・・・2パック
ミニトマト・・・6個
白ネギ、生姜、ニンニクのみじん切り・・・各大さじ1と1/2
柚子胡椒・・・小さじ2
パクチー・・・適量
サラダ油・・・適量

※チャーハンにする場合
卵・・・2個
〈作り方〉
1.フライパンでサラダ油を熱し、白ネギ・生姜・ニンニクのみじん切りと柚子胡椒を入れて炒める。
2.半分に切ったミニトマトと納豆を加える。
3.納豆を軽くつぶしながら、強火で炒める。
4.ご飯の上に盛り付け、お好みでパクチーをのせて完成。

※チャーハンにする場合
1.熱したフライパンにサラダ油をひき、溶き卵を回しいれる。
2.納豆炒めとご飯を加えて強火で炒める。
3.全体に味がなじんだら、塩こしょうで味を整え、お好みでパクチーをのせて完成。
森枝幹(もりえだ・かん)
1986年生まれ。調理師専門学校を卒業後、オーストラリアへ留学。世界のベストレストランの常連「Tetsuya’s」で料理の基礎を学び、帰国後は京料理の「湖月」、分子ガストロノミーで有名なマンダリンオリエンタルホテル内「タパス モラキュラーバー」で料理人としての修行を積み、2011年に独立。下北沢の「Salmon&Trout(サーモン・アンド・トラウト)」のシェフを務めた後、2019年11月、渋谷パルコにタイ料理店「CHOMPOO(チョンプー)」をオープン。ほかにフードマガジンの発行や、レモンサワー専門店のプロデュースなど、従来の料理人に枠にとらわれず活動を続ける。父は写真家・食文化研究家として知られる森枝卓士氏。